伊藤學賞:野上 邦栄 氏
東京都立大学 客員教授
野上邦栄氏は、東京都立大学において一貫して鋼橋の性能設計、耐荷性能評価技術および維持管理に関する研究に従事され、その発展に大きく貢献された。鋼橋および構造部材の座屈・耐荷力に関する研究では、鋼桁橋の最適桁高の算出方法の提案、2主桁橋の構造特性による座屈崩壊区分の解明、有効座屈長の算出法に関する問題点とその対応策、箱断面圧縮部材の複数耐荷力曲線の提案など耐荷性能評価技術の発展に貢献されました。さらに、日本道路協会鋼橋小委員会委員として道路橋示方書の性能照査型設計法への改訂に尽力されたほか、多くの学協会で委員会委員長や委員として、鋼橋の設計・維持管理の検討、設計基準改訂などに貢献されました。
特に、吊形式橋梁の開発研究では、吊形式橋梁(吊橋、斜張橋)鋼製主塔の座屈・耐荷力特性について解析的に検討し、合理的な座屈設計法を提案し、この業績により土木学会田中賞(論文部門)を受賞されました。これらは、本州四国連絡橋鋼上部構造委員会委員として尽力した吊橋主塔設計要領の改訂にも活かされました。また、吊形式橋梁の設計の合理化・長大化を推進するため、吊形式橋梁全体系の終局強度に着目した各構成部材の安全率の組合わせを提案し、合理化設計への可能性を示されました。さらに、新構造形式として低塔斜張橋および多径間超長大吊橋を考案し、それらの実現可能性を示されました。前者の業績により土木学会田中賞(論文部門)を受賞されました。さらに、本州四国連絡橋公団海峡横断道路ケーブル安全率検討小委員会委員として、海峡横断道路ケーブル設計指針(案)の作成にも尽力されました。
維持管理に関する研究では、独自に開発した大規模かつ精緻な3D表面計測装置を用いて、19.5年海洋暴露試験体の板厚減少量、腐食速度等の腐食形態を解明されました。また、腐食形態の異なる種々の柱および梁部材に対して実験的・解析的検討を行い、最大断面欠損率を用いた残存耐荷力式を提示されました。さらに、土木研究所・早稲田大学との共同研究では、腐食劣化の生じた鋼トラス橋格点部、弦材および斜材の圧縮部材に対してそれらの残存耐荷力特性について実験的・解析的検討によって残存耐荷性能評価法を提案し、維持管理実務の健全度評価への活用に寄与されました。
上述のとおり、野上邦栄氏は、長年にわたり鋼橋技術の進歩・発展に多大なる貢献をなされました。